支部長ご挨拶(2016年度)
【平成29年度の支部長ご挨拶は、7月頃に掲載いたします。】
土木の技術開発
平成28年度 土木学会関西支部 支部長 建山 和由
(立命館大学理工学部 教授)
本年度、関西支部長を務めさせていただくことになりました。1年間、宜しく御願いをいたします。
20年以上前だったと思います。関西支部のFCC(フォーラム・シビル・コスモス)で技術開発を考えるミニシンポジウムを何回かに分けて開きました。当時、製薬メーカーでは売り上げの10~30%を、電気製品や自動車などの一般製造業では売り上げの4%程度を新たな製品の開発研究に充てていました。それに対し、土木の分野では0.4%程度の予算しか充てていませんでした。このような数字を見て、土木でももっと技術開発に力を入れるべきではないかとの思いから企画しました。
このミニシンポジウムでは、様々な分野で研究開発に携わっておられる方々をお招きし、各社の研究開発の実情をお話しいただいた後、土木分野の参加者との意見交換を行いました。ある回で、当時はまだ液晶テレビが出だした頃でしたが、電機メーカーで液晶画面の開発に携わっている方から、研究開発の戦略について話をお聞きしました。その企業では、一つの開発研究が新しい技術を生み出すと、それが次の開発研究の種を掘り起こし、それがさらに新たな技術の創生に繋がって行くスパイラル戦略を立てて、技術開発に取り組んでいると話されました。「さすがにすごいですね」と感想を述べたところ、彼の反応は意外なもので、「土木の方がすごいじゃないですか。世界で一番長い橋やトンネルを作る技術を生み出す土木という技術を我々は畏敬の念を持ってみています。」と返されました。
そう言われると、土木の技術はたいしたものです。確かに土木の分野では、特定のテーマを決めて研究開発に多くの予算を充てることは少ないかもしれませんが、実際のプロジェクトとの関わりの中で現場での課題や問題を解決するための工夫を積み重ね、技術開発を行っているケースは数多くあります。プロジェクトの予算の中に見えない形で研究開発のためのコストが包含されていると言う見方ができるのかもしれません。土木で開発される技術はそのプロジェクトに役立つことが求められるため、極めて実用的で、今の土木の技術を支えているのは、現場の創意と工夫であると言えると思います。
今後、新たな大型プロジェクトが減ると、技術開発を考える余地が減っていくことが懸念されます。中小規模の工事では、設計や施工の方法が仕様として与えられていて、新たな技術を取り入れる余地が少ないからです。しかしながら、技術は、使い続けるだけでは陳腐化し、時代遅れになってしまいますが、使っている人は意外とそのことに気付かないものです。先端的な技術を維持するためには、常に現場の工夫を技術開発に結びつけ、一段上を目指す姿勢が不可欠で、そのための機運をいかにしてつくっていくのかを考えなければならないと思っています。
来年、関西支部は創立90周年を迎えます。その先には節目の100周年が見えています。90周年記念事業では、新たな種をまいて10年後の100周年の時に花が開くように育てていくような事業を記念行事の中に組み入れたいと考えています。先の技術開発のテーマもその中に入れ込めればと考えています。どうぞ、ご指導、ご支援をいただきますよう宜しく御願いをいたします。
<支部だより73号より>